呼吸もままならない甘やかな息苦しさに、思わず彼の腕に手を添えた。
白銀色の秒針が音も立てずにまわる、戸惑いの60秒後。
「……なんて、すみません」
ほのかな茶目っ気が滲む、甘い声が鼓膜を擽る。
ゆったりと、でも案外簡単に腕を解いた百瀬くんは、覗き込むようにして私と瞳を重ねた。
「もう寝ちゃったかなって思ってたので、つい嬉しくて」
桜色の唇は花綻ぶようにふわりと笑みをつくり、綺麗な二重幅の眼は無邪気に細まる。
漸く見えた彼は、やっぱり丁寧に磨かれた宝石のように燦然とキラキラ輝いていた。
上手に冗談を返す事すらもできなくて。ひとりで持つカップ麺に視線を落とし、彼の体温が残る顳顬にただそわそわと触れる。
すると頭上から、また擽ったくなる言葉が降り注ぐ。
「それ、食べたらすぐ寝ちゃいますか?」
見上げたくないのに、見上げてしまう。
あざとく円やかな色気を漂わせた瞳に、またすぐに捕らわれてしまう。
「急いでシャワー浴びてくるので、もう少しだけ一緒に過ごせないかなって」
「、……さっきから、冗談きついです」
いっそのこと、いままでの優しさ含めて全部、冗談だと言ってくれた方が楽なのに。
そうしたら、戸惑いからも、自惚れてしまいそうな恥ずかしさからも、不透明な甘美の世界からも抜け出せるのに。



