「前に許容範囲って。時間もちょうどいい」
すらりとした親指が、そっと、“熱湯3分”の文字をなぞる。その指先を見つめたまま、一ミリも動けなくなる。
『1分だけでいいんで、寄り掛かっていいですか』
『……まあ、3分までは許容範囲、です』
過去の自分が、全身の熱を煽る。
確かに言った、言ったけれど、密着度も百瀬くんから伝わってくる熱も、あの時の比じゃない。
彼が纏う煙草の香りさえ、今は酷く甘ったるい。
「…そ、れとこれとは話が……それに、まだお湯入れてません」
背中越しに鼓動が伝わってしまわないか、気が気じゃなくて。自分でも阿呆だと後悔しそうな抗議を口走ってしまう。
すると、カサ、とマウンテンパーカーの音が鳴った。
「じゃあ、入れてからスタートですね」
極めて穏やかでいて、蠱惑的な声。
それと同時。
言葉とは裏腹に、彼の空いていた手が私の胸元にまわって。まるで拘束するように、ぎゅ、と抱き締められた。
「(……スタート、すら、できないのですが)」



