焦がれる吐息





後ろ手で勢いよく閉めたドアに、とんっと力無く寄りかかり放心する。



———どういうこと…?


ケンちゃんに騙されて来たとばかり思ってたのに。

私のこと、知ってた?女が苦手なんじゃないの?

ぐるぐると、幾つものハテナが思考回路で渦を巻く。心を落ち着かせるように、一度深呼吸してみても意味がなかった。
 

『……澄香さんが住んでるって、知ってました』

『知ってて、来たんです』


確かめるように心の中で繰り返してみた彼の声は、鬱陶しいほどに私の鼓動を騒がせる。

眉をぐっと寄せて、鳴り続けるスマホを荒々しくタップした。


『あ、もしもお〜し、スミちゃ、』

「どういうこと」

『あら〜その反応、彼が来たのね?!』


嬉しそうに弾む声にカチッときた。いや、なんで驚いてるの。勝手にヒトの家の鍵渡したの、ケンちゃんのくせに。


「さっさと説明して」

『やーん、シラフで感情曝け出してくれるスミちゃん久しぶりじゃないの〜いつ以来?あ、小学六年生のときの演劇で、』

「ケンジ、」

『…ゔ、そんなに怒らないでよお、昨日ちゃんと話そうと思ったのに"少し考えさせて"なんて、話ばっさり切ったのスミちゃんじゃない!』

「それは聞く気にもなれなかったから。急に知らない男の彼女になれなんて、ケンちゃん頭どうかしてるよ」


昨日、すぐに断ればよかった。

今こそはっきりと言葉にすれば、すぐさま『擬似ね!あくまでも!』と焦る声が鼓膜を貫く。


『だからね?かわいいスミちゃんと一緒にお食事したりお出かけしたり。それっぽいことすれば、彼も女の子に慣れてくれるかなって。その逆も然りよ!スミちゃんの克服も兼ねてって、昨日言ったじゃない』


「……それで、鍵渡す必要ある?」


どんな理由であれ、赤の他人の男女を一緒に住まわせようなんて正気を疑う。今まで寧ろ過保護だったくせに、どうして急にトチ狂った考えになるのか。根っからエンターテイナー型のケンちゃんは、いつだって突拍子もなくて理解できない。