焦がれる吐息





『こんな時間に食べたら太っちゃうわよ?ね?』

「今日は特別」

ケンちゃんが大好物のビックサイズカップ麺、デカ盛り味噌コーンはコンビニではなかなか見つけられないレア商品。

何故か私の家に常備しているその一つに八つ当たりでもしようと、ケンちゃんが勝手にストック場所としている吊り戸棚に手を伸ばそうとした。


と、カウンターの上に置いている白木の木目柄置き時計が目に入る。

二つの針はもう間もなく、てっぺんで重なる頃だった。


「(……遅いな、百瀬くん)」


私のせいで休んだ分、仕事が溜まっているのだろうか。

今夜は冷え込んでいる、頑張った手は悴んでないだろうか。


『え〜んアタシのデカ盛り〜』


メソメソとした声にハッとして、慌てて時計から視線を外す。するとその横、白い封筒がちょうど視界に入って、雑念を消し去るように指先が流れた。



「そういえば、宍戸さんから手紙預かったよ」

『え、宍戸から手紙?アタシに?』

「うん」


ケンちゃんからハテナが飛んでくる中、手にした白い封筒を裏表見てみる。

副社長の宍戸さんとまともに話したのは、今日が初めてだった。男は嫌いだけれど、誰彼構わず距離を置いているわけではない。

というか、宍戸さんは私の中で男ではなかった。ケンちゃんの部下であり、『(いつもケンジがお世話になっています)』という只々恐縮の感情しか抱いた事がない。

破天荒で頭の悪いケンちゃんが社長をやっていけてるのも、会社が成り立っているのも100パーセント副社長のおかげだからだ。

二人が長年上手くやっていけるのも、正反対なところがいいのかもしれない。

ルーズなケンちゃんに対して、宍戸さんは銀縁眼鏡に黒髪、割とカジュアルな社風の中でも常に完璧なスーツとネクタイのきっちりスタイル。

ポーカーフェイスが崩れているところを誰も見たことがないらしく、サイボーグなんて影で呼ばれているところを目撃した事もあった。


実際に私も、凍りついたような表情筋が動いたところを一度も見た事がなかったけれど、今日は少し様子が違ったような気もする。