焦がれる吐息




また中途半端に言葉が止まったまま、唇をぎゅっと引き結んだ。


それでもケンちゃんには伝わったのか、『ふーん、なるほどね』と頬杖をついたような声が返ってくる。


『要するに紫月くんは、熱烈アプローチをしないスミちゃんに対しては苦手意識を抱かないって事ね?まあ確かに、事務所の女は皆んな紫月くんに対して目をハートにしてたからなあ〜』

「そう」

『あ、そうだ、紫月くんが事務所のエントランス入った瞬間ね?きゃあーって歓声が上がっちゃって、もう既に売れっ子俳優みたいだったの』

「…へえ」

『受付の女子なんてコソコソとスカート短くしたり、化粧直し始めたりしちゃって。はしたないからやめなさい!!って思わず学校の先生みたいに注意しちゃったわ〜』

「……ふーん」

『ほら、スミちゃんも知ってる人事の子達も!普段の数倍は目ぎらっぎら輝かせて百瀬くぅん♡って女の顔になっちゃって、やだわもお〜』

「………」

『紫月くんはそういう分かりやすい女の子が苦手なのかしら?そうだとしたら、確かにスミちゃんは治療対象外ね。男に対してスミちゃんの目がハートになる事なんて、“絶対”にあり得ないもんね?』

「………」

『ね、スミちゃん?』

「……そうなんじゃない?」

『あれ、なんかスミちゃん元気なくなってる?』

「別に?」


……そう、強く口にしたものの。

ケンちゃんの言葉を頭の中で映像化していた自分の心が、明らかにしゅんと萎んでいるのが分かった。



今は、百瀬くんに苦手だと思われていない。

寧ろ自惚れてしまいそうなくらいに、眼差しも、言葉も、彼から伝わる全てが優しい。

でも、もしも。

私が、百瀬くんが思う、私じゃなくなったとしたら。


私が他の女の子達と同じように、百瀬くんに会えることを喜ぶようになってしまったら。

百瀬くんの為に、お洒落をするようになったり、メイクを頑張ったり。百瀬くんを見る目が、輝いてしまったら……ハートになってしまったら…?


もし、私が女の顔になって。


百瀬くんに“そういう感情”を向けてしまったら、どうなってしまうんだろう。


尾崎の前であからさまな線を引いたり、周囲からの熱視線を遮断したり。


百瀬くんが拒絶する姿が脳裏に浮かんで、途端に蹲りたくなるような、泣きたくなるような気持ちが心を襲った。

この世の何よりも美しい、あの澄んだ青い瞳に映してもらえなくなる事がとても怖い事のように感じて。

そっと、考える事から逃げるように睫毛を伏せる。


ぷつぷつと、もう間も無く沸きそうな透明の液体が、私が彼に抱いてる心と同じ温度のようで。

もう後戻りできないそれに、何故か切なさが込み上げてきて自分の心ごと目を逸らしてしまった。