無意識に強く握りしめたスマホの向こう側からは、ケンちゃんが静かに動いた気配がする。
『……やっぱり、紫月くんでも怖かった?』
「違う、そうじゃなくて」
自分でも驚くほど早くに否定を形にした唇は、すぐに中途半端に止まる。
次に自分が紡ごうとする言葉に、胸のあたりがギジリと軋むような気がして声にするのを躊躇ってしまう。
百瀬くんは、最初から私に対して苦手意識を持っていなかった。現在進行形でも、嫌われてはいないと思う。それは、彼と接してちゃんと分かる。
でも、それは———
『スミちゃん?』
「……多分さ、」
『うん』
「たぶん、百瀬くんの女の定義って、一方的に興味関心、好意を寄せてくる人のことで。そういう人が無理なんだと思う」
『うん?』
“———眼差しとか、甘ったるい匂いとか、特有の身体つきとか。苦手とか嫌い以前に、無理なんです。女性っていう生き物が。”
鮮やかな落ち葉と共に、はっきりと告げた彼の言葉を、瞳を、鮮明に覚えている。その時の、自分の胸に刺さるような痛みも。
きっと、百瀬くんが今までに出会った女は、最初から彼に対して明らかな熱い矢印を向ける女ばかりだったのだろう。
「だから、そもそも私は治療対象外。私は百瀬くんにとっての女に当て嵌まらないよ。だって、」
———私は百瀬くんに対して、そういう感情を抱いてないから。
そう、百瀬くんも思っているから。
そう続くはずの言葉が、小骨のように喉に引っかかって上手に出てこなかった。
後はただ現実を並べればいいだけなのに、胸の真ん中が爪先で摘まれたように痛む。



