𓂃◌𓈒𓐍
『ゔゔっ…スミちゃんの声だ…ゔゔっ…』
「分かったからそろそろ泣き止んで」
『あーん、これよこれえ!スミちゃんの怠そうな声!ずっと聞きたかったのよぉ〜!なのに電話もできないくらい忙しいなんてどんな拷問?!スミちゃんが恋しいスミちゃん不足で死んでじゃう〜わあ〜ん〜早く帰りたいぃ〜』
「ね」
適当に相槌を打ちながら、小鍋に水を入れる。
深夜、無性に食べたくなったカップラーメンを作ろうとしていた時だった。
ずっとメッセージのやりとりをしていたケンちゃんから、久しぶりに電話が掛かってきたのだ。
でも聞こえてくるのは嗚咽混じりの愚痴ばかりで、一向に話が進まない。
スマホ片手にコンロの点火スイッチをチチチと押せば、その音が聞こえたのか、ケンちゃんは『あら?もしかして料理するの…?』と驚いたような声をあげる。
「カップ麺のお湯。ケトル壊れたから」
『なーんだ、スミちゃんが料理だなんて思わず立ちあがっちゃったわ〜お湯沸かせる?大丈夫?』
「……馬鹿にしないで」
本気で心配してるケンちゃんに思いっきり眉を寄せる。料理は大の苦手だけれど、お湯ぐらい沸かせるに決まってる。それに、たぶん卵焼きくらいだったら作れると思う。面倒臭いから、作る気ないけど。
『ふふふ、それよりまたインスタント?料理上手な紫月くんがいるから少しは健康的な生活送ってくれてるかな〜って期待してたのにな〜』
「……」
『どうせお互いずっと部屋に引き篭もって、まだ碌に会話もしてないんでしょ?』
「……」
『まあ、一つ屋根の下で暮らしてるだけでも二人にとっては大きな進歩よね〜あとはせめて目合わせて挨拶くらいできるようになったらなあ〜…』
「……」
『一緒にご飯食べられるようになったらもう花丸よ!お出掛けなんてできたら、お赤飯———』
小鍋の中の水が沸騰するよりも先に。
自分の頬が、耳が、彼に抱き締められた身体が、沸騰したように熱くなっていく。



