「……もしもし」
トーンは然程変わらないが、明らかに柔らかくなった彼女の声。
『———』
微かに漏れ聞こえてくるのは、低く、確かに男の声。
「……おはようございます」
『———』
「……今は、事務所のジムに来てます」
『———』
「……体調はもう平気です…」
『———』
膝が、ガクガクと震え始める。
血の気が、どんどん引いていく。
相手が何を話しているかまでは分からない。
だが、分かる。分かってしまう。
俯き流れ落ちる髪から覗くのは、照れたように唇を小さく尖らせるかわいい横顔。粉雪のような真っ白な頬は、紅色に淡く色づいている。
そして、地獄へと堕ちるのは一瞬だった。
「……百瀬くんって、心配症ですよね」
ガーン!!と鈍器で殴られるような感覚。
花弁のような麗しい唇を僅かに綻ばせた女神が、ぐわんぐわんと歪んで見える。
……嘘だ、嘘だと言ってくれ…
女神が、男と電話を……?
「(モモセクン…モモセ、クン…モモセ……)」
壊れた脳内でふわふわと浮かぶ膨大なデータ———その中で該当する人物は、“ 百瀬紫月” ただ一人だった。



