高くもなく低すぎない、空間に柔く溶け込むような落ち着いた声。
本当は、はじめから思っていた。
艶気を含んだ彼の声は、認めたくないほどに心地いい。声フェチでもなんでもないはずなのに、いちいち胸の内が擽ぐられるような響き。
その声で、ごく自然と紡がれた"澄香さん"に意識がぜんぶもっていかれた。
自分の名前ってこんなにも綺麗な響きだっただろうかと、阿保なことを浮かべてしまうくらいに動揺して、混乱する。
「………」
戸惑う声すらも忘れて、ただ瞬きだけを繰り返した。
私を瞳にうつしていた彼は、そっと伏し目に。
「…だから、」と形のいい唇を重たそうにして言い淀む。
私にどう伝えようか迷っているように見えた。
繊細な沈黙の傍らで、トクトクと自分の鼓動の音が聞こえる。
長い睫毛がゆったりとあがる。
彼はこちらを伺うようにして、再び私を深く澄み渡る瞳に閉じ込めた。
「……澄香さんが住んでるって、知ってました」
「え?」
「知ってて、来たんです」
静かに紡ぎ出された言葉。
ほんの一瞬、呼吸も思考もすべてが止まり———ヴーヴー、と手の中で震えた振動でハッと意識がとびはねる。
【ケンちゃん】
画面に表示されたそれに視線を落として数秒。
「……出なくていいんですか」
「あ、いや、でます。すみません」
パタパタと、逃げるように寝室に飛び込んだ。



