焦がれる吐息





ポケットに忍ばせた白い封筒、その中身は、


【ペアサンセットクルーズ ビア&カクテルプラン〜夕陽を眺めながら船の上で最高の乾杯を〜】


と書かれた、クルージングレストランのペアチケット。ありきたりではなく、お酒好きの澄香さんにぴったり、夜景で会話も弾むロマンチックで洒落たデートだ。


映画や動物園、ショッピングなど様々な妄想をしたが、我ながらよく思いついた名案。これをいま彼女に渡せば、きっと食いついてくださる。

美しく光り輝く瞳がお目に掛かれる筈だ。


会話の流れも完璧、ごく自然な流れでデートにお誘いを……。



「ですが、一人暮らしなので不便な事も多いでしょう?…その…特にお食事などは…?」


計画通りに愛を込めて眉尻を垂らし、ポケット内で触れる封筒の端を握り締めた。その指先は、柄にもなく震えている。

こんなにも女神との対面が緊張するとは思わなかった。想定外なのは、異常な胸の高鳴りだけ。

ここで彼女は、恥ずかしそうに肯定する。


———と、思ったのに。



「……一人暮らし、食事……」


彼女は俺の言葉をちいさく繰り返しながら、可憐にカールされた長い睫毛を幾つか瞬かせた。

そして、有ろうことか、


「いえ、」


どことなく居心地悪そうに答えた彼女は、横髪を耳に掛けながら視線を落とす。

艶かしげに彷徨う美しい瞳。露わになった小さな耳は、徐々にほわんと紅く染まっていき。


「……不便は、全く」


まるで何かを思い浮かべなら言葉を紡ぎ、伏せた瞳にほのかな甘い熱を宿す。


頭の中で描いていた恥じらう姿とは、まるきり違う。

数十倍も数百倍も可愛いその姿は、高鳴りではなく、何故か胸騒ぎを覚えさせる。