焦がれる吐息





眼鏡をずらし鼻の付け根を押さえて悶えていれば、美しい顔を顰め訝しげな眼差しをくださる女神。

何時迄もその冷え切った瞳に痺れていたいところだが、気を取り直して咳払いを一つ。

冷静を装い、事前にシミュレーションしていた序章を口にする。


「社長が出張中なので、何かお困り事がないかと思いまして……」

「いえ特に。」



ばっさり。考える間も無く即答する澄香さんは想定内だ。女神の気持ち良いほどにはっきりとした物言い、クールビューティーな所がまた好きなところの一つである。

うんうん、と心の中で自分に頷きながら次に予定していた会話を頭の中で組み立てた。

その壱。

まずは「しかし一人暮らしなので不便な事も多いのでは?特に食事など…」と、食事の話にもっていく。

予想では、ここで彼女は「あーまあー…」と少し気恥ずかしそうにする筈だ。

何故なら、澄香様は料理音痴だからだ。


この世の全てを完璧に熟すタイプに見えるのに、料理が苦手だなんて何とも愛くるしいギャップ。

社長に長年付き添っているからこそ得られたこの情報を聞いたとき、女神に更に沼堕ちした。


何でも作って差し上げたい、手取り足取り料理を教えてあげたいと料理教室に通い始めたことは勿論誰も知らない。


そんな尽くしたくなってしまう澄香様は、ほっといたらコンビニ生活らしい。現在、社長が定期的に一人暮らしの彼女の部屋に、健康的な食事を作りに通っているとのこと。


だから社長が居ない今、澄香様はコンビニ食ばかりで飽き飽きしているはずだ、絶対に。


そこで俺が———さっと、ステンカラーコートに手を入れる。今朝何度も確認した封筒を指先で確認して、思わず緩みそうになる口元を必死に引き締める。