焦がれる吐息




社長は澄香さんを異様に可愛がっている。

その過保護っぷりは、従姉妹の枠を越えているようにも感じる。(澄香さんを愛さずにいられないのは、共感できるが。)

社内で澄香さんの事を自慢して回るくせに、社長も社長で、彼女を狙おうとする者がいれば脅しに掛かるのだ。


社長に自分の恋心を気づかれてしまったら、余計に澄香さんに近づけなくなってしまう。


だからこの期間、このチャンスを逃してはいけない。これは神様が、我が女神様へと背中を押してくれているに違いない。

4年目の秋、遂に行動を起こす時がきたのだ。

夜な夜な立てた計画は完璧だ。

そして決行は、まさに本日。




「(宍戸昴、いざ、女神を初デートへ……!)」



ぐ、と拳を握りしめた時、チン、と目的階についた。直様またドアを押さえ彼女を促す。

通常なら、そのまま更衣室に入っていく凛とした背中を切なく見届けるだけだった。


だが、今日から違うのだ。

今日からこの関係をどうか———


「……す、澄香さん…!!」


力みすぎた声に、数歩先に進んでいた小さな肩が跳ねる。

ばくばくばくと、人生で最高潮に心臓が緊張を訴えた。

振り向いた女神は、ゆるりと妖美な眼差しを投げる。そして表情ひとつ動かさず、首を傾げた。


「何か」

「……」

「……」

「……」

「……何か?」

「(ぐっ……か、かわぃい…!!)」


一日に二度も彼女の瞳に映る事ができた感動にプラスして首を傾げるという最高の仕草を貰えて、もうそれだけで目頭が熱くなる。