焦がれる吐息





澄香さんの視界から外れたのは、当たり前に一瞬だった。すぐさま彼女は独特な冷気を纏い、エレベーターの所在階数ランプをぼうっと見上げる。

いつだって彼女から伝わってくるのは、外の世界には一切興味がないという鉄壁だった。


「(……まあ、そんな所も素敵だ大好きだ。)」



彼女の後ろ姿を、熱く黙々と見つめ続けて数十秒。エレベーターが着いた瞬間、誰よりも先に動き出す。


ささっ!とドアを押さえ「どうぞ(女神様)」と一礼し、ぺこりと乗り込む彼女を微笑みながら見守る。

刹那的に、煙草とバニラが混ざり合う甘く格調高い色気が漂う。マニッシュでハンサムな至高の女神の香りに脳天をクラクラさせられながらも、真っ先にボタン前をキープ。

いつも通りジム施設である6階を押すと、静かに背中で彼女を感じる。


今日はなんて運がいいのか、エレベーター内は二人きりだった。密室に澄香さんと自分のみ……意識しだすと興奮で脈拍が乱れ始める。


だが特に会話もせず、徹底して彼女のほうへと振り向かないようにする。


………いや振り向きたい、本当は。

美しいお顔を拝みたいし、官能的な瞳に映りたい、怠そうな冷めた声でもいいから聞きたいし、天気だって何だっていいからお喋りしたい。

何なら何百回妄想したか分からないどこかのラブストーリーのようにエレベーターが突然止まってそのまま朝まで二人で共に……。


なんて頭の中で想い続けて4年目。

行動を起こしたくとも、今までずっと出来なかった。

澄香さんに恋してすぐの事、酔い潰れた社長がメソメソと零した愚痴を耳にしてしまったからだ。

『スミちゃんのね、死ぬほど男嫌いなのをアタシは治したいのよお〜何だってあんな男のせいでスミちゃんが怯えながら生活しなきゃいけないのよ〜ぅうう〜』

彼女が重度の男性恐怖症である、と。

だから今日まで、怖がらせないように嫌われないようにと細心の注意を払い。


影では、慎ましくしっかりと動いてきたのだ。