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都心の一等地に聳え立つ、全面ガラス張りのモダンな高層ビル。現社長就任とともに移転した事務所は、以前よりも格段と立派になった。
質素な日本の芸能事務所の中では珍しく、正面玄関には所属アーティストのポスターがでかでかと飾ってある。
そして煌びやかなエントランスを抜けた一階。
白を基調とした眩い空間には、一般人も利用できるカフェとグッズの物販コーナーが設けられていた。
『カフェが無駄な経費ですって?ほんっっとつまらない男ね!いつでもどこでもアピールしてなんぼの世界よ。ファンを喜ばせる事がアタシたちの務め、癒す事がアタシたちの生き甲斐なの。資金ならアタシが出すわよこのクソ眼鏡がぁあ!!』
当初、事務所に一般人が出入りできるようになる事を強く反対していたところ。最後には半狂乱で押し通された事は、頭が痛くなる記憶だ。
例のメチャクチャな契約書もまた然り。未だにどうも、社長の思考にはついていけない。
———ことん、とソーサーにカップを置き、腕時計で時刻を確認。現在AM7:30。
頭痛を起こすカフェにて、日課であるブラックコーヒーを完飲。
無駄な経費ばかりが嵩む此処———大手芸能事務所の副社長執行役員、宍戸昴、31歳、独身。
座右の銘は【謹厳実直】、嫌いな言葉は【規約違反】。社員の間では、密かにサイボーグ宍戸と呼ばれていることは把握済みだ。
特別、正す気もないが。



