「一人になんて、させるわけないでしょ」
広い胸にぴったり張り付いた耳には、すこし怒ったような低く掠れた声が響き渡った。
「こんなに可愛い人を。」
後頭部に添えられた手、背中に回る腕の力がそっと強くなって、更にきつく閉じ込められる。
重なり合う二つの強い心音、
悔しいほどに落ち着く香り、
まるで、暗い世界から守るように大切に包み込んでくれる体温。
縺れ乱れる思考はずっと置いてけぼりで、ただ、彼から与えられるものだけを感じる。驚きで涙は引っ込み、呆気なく震えは止まっていた。
「俺は澄香さんの弱い所も全部、見たいです」
「…、」
「もっと知りたいし、もっと近づきたい」
次々と紡がれる言葉が、心を熱く掻き乱す。
「すみません、後でいくらでも怒られるんで」
そして一度だけ、すり、と私の頭に擦り寄る感覚。
「今だけは、許してください」
懇願するような言葉を最後に、百瀬くんは、暫くただ静かに私を抱き締めた。
窮屈な温もりが、息苦しくて、酷く熱くて。
抵抗しようとしていた手は、思わず彼の胸元を握り締め、息を凝らし、ぎゅっと目を瞑った。
濡れた睫毛の隙間からじわりと滲むそれは、たった今まで冷たかったはずなのに温かい。逞しい腕が怖いはずなのに、胸が熱く膨らむばかりだった。



