「……なに、それ、」
咄嗟に深く俯いて、静かに唇を震わせる。
いつもより乱れた髪も、ずっと外にいたのだと分かるほどに冷えている指先も、嫌と言うほど胸を熱く焦がしていく。
———もしかして、探してくれてたの?
———百瀬くんの欲って、何?
聞きたい事も、知りたい事も沢山あった。
けれどこれ以上、彼の不透明な優しさに触れ続けるのが怖くて、苦しくて。
滑稽な自分を、美しい瞳の前で晒したくなくて。
「……怒りますし、ほんとうに、困ります」
どこまでも素直になれない私は、抗うように冷たい声を落とす。
そんな事を、言いたいわけではないのに。
「迎えなんていいって」
「……」
「近づかないでって、言ってるのに」
「……」
「……ひとりで平気だから、放っておいて」
酷い事を言ってるって分かってるのに。
酔いがまわる今、言葉が止まらなかった。
百瀬くんは、無言だった。
そんな彼の手を、静かに振り払おうとして。
でもそれを制するようにまた強く握り締められるから、下唇を噛み、抗議するように睨み上げる。
再びぶつかったのは、揺れる青い瞳。
彼は眉尻を垂らし、唇を真一文字に固く引き結んでいた。
初めて見る、まるで傷ついたようなその表情に、胸が千切れるように辛く痛くなってやっぱり俯いてしまった。
「……離して、」
「………」
「おねがい、」
「………」
ずっと堪えている二度目の雫が、もう直ぐにでもこぼれてしまいそうで、震える声を振り絞る。
「百瀬くんに、こんな姿みられたくないっ…」
その刹那、くいっと強く引っ張られた。
視界の隅で、彼のビニール傘が地面に転がったのを一瞬だけ捉える。
目を見開いた時にはもう、とん、と硬いものに頬が当たった。途端に、親しい煙草の香りとやさしい温もりに包まれる。



