焦がれる吐息





今は百瀬くんの事は考えない、

尾崎をこれ以上酔わせない、


そんな事を唱えながら淡々と呑み続けていれば、一次会が終わる頃には足元はふわふわ、意識に霞がかかっていた。

それでも表には出ていないのか、「澄香様さすが〜!」「飲み足りないでしょ?!」なんて二次会へと熱狂的に煽られる。


「行こうよ〜カラオケ!」

「……あーいや、尾崎送ってく」


そう言った私の視線を辿るように、その場にいる全員が振り返った。

最後尾、ふらふらと店から出てきた尾崎の瞼はほぼ下りている。泥酔は避けられたけれど、彼女は今すぐ眠りの世界へ飛んでしまいそうだった。


「あちゃーあれじゃすぐに男に喰われちゃうよ」

「澄香様、ごめん。尾崎よろしく」

「澄香がいれば安心だね、ごめんね」


皆んな揃って眉を八の字に、労わるような笑みを浮かべる二次会組に見送られて尾崎の手をひいた。


「……歩ける?」

「…ぎもちわるい」

「うん、駅まで頑張ろうね」

「うゔ、スミせんぱいイケメンすぎる〜」


片腕にずっしり絡みつく尾崎、片手に傘、心許ない足は最早使命感だけで動かす。

「気をつけてね〜!」という誰かの大きな声を背に、目指すは徒歩10分程の距離にある駅。

本当は店でタクシーを呼んでもらおうと思っていたが、今日は華金、生憎の悪天候ということもあって駅まで行ったほうが早いと遠回しに断られてしまった。


音の一つもしない、糸のような細やかな雨がさらさらと片側の肩を濡らす。

先程まで火照っていた身体は、いつの間にか風邪をひく前兆のように背骨のほうで寒気を訴えていた。時折り頬に触れる秋風が、心地良さよりもツンと肌を刺すような痛みを連れてくる。

ずっと彼のせいで熱っぽいと思っていたけれど、本当に熱があるのかもしれない。

それでもアルコールに浸る鈍い脳は、可愛い後輩をタクシー乗り場へ連れて行けという指令ばかりを発信していた。


「…ゔ〜すみません…いつもご迷惑を……」

「別に?」

「で、でも、ううう〜」


どうやら冷たい外気のお陰で少しずつ酔いが覚めきた尾崎は、段々としおらしくなっていく。

そんな彼女に「平気だって」と小さく笑って、ネオンが反射する水溜りを踏んだ。

何年振りか、久しぶりにゆったりと歩く夜空の下は、ぎゅうぎゅうと密着してくる尾崎がいるからか思ったよりも怖くない。


これなら歩ける、このまま歩ける。

もしかしたら、案外簡単に過去なんて克服できるのかもしれない、そう都合の良い心を繕いながら大通りを出たときだった。


ぴちゃ、ぴちゃ、と二人で鳴らす静かな足音に続いて、背後で同じような音がゆっくりとついてくるような気がした。