「ぐふふ、スミしぇんぱ〜い」
「……なに、この状況」
「あ、きたきた!澄香、遅いよ〜アンタの尾崎大変だったんだから」
碌に気分転換もできないまま個室に戻ってすぐ、目に飛び込んできたのはボトルを抱き締めてソファーに倒れ込む尾崎だった。私がいない間に合流していたスタッフが、枝豆片手に呆れたように笑う。
「尾崎さん、ワイン一気飲み始めちゃって…澄香先輩が戻ってこない〜寂しい〜って…すみません、止められなくて…」
「いや、寧ろごめん」
しゅんと肩を窄ませる新人の子に申し訳なくなる。折角の歓迎会なのに、そう眉を寄せながら問題児の顔を覗き込んだ。
「ふふふ、なんだか今日のスミ先輩の腕かたいですね〜どうしてえ?極太だしい〜」
「……尾崎、それボトル」
瓶に頬擦りをする尾崎の肩を叩けば、伏せられていた睫毛がゆっくりと上がる。夢見るような瞳が私を捉えた瞬間、紅色の頬がいつもの数倍だらしなく蕩けた。
「スミせんぱいやっと戻ってきてくれた〜ワイン温めときましたよ〜ホットワインでえ〜す」
「いらない。ほら、水飲みな」
「ぶう〜じゃあわたしが飲むからいいですよ〜」
たったいま私の腕だと言っていたくせに、起き上がった尾崎はボトルの栓を開けながら拗ねたように唇を尖らせる。
酔っ払った問題児は、こうなってしまったら会話も通じない。
思い出すのは、昨年の忘年会時。
酔っ払った彼女は服を脱ぎ捨て、身につけた新作ブラのセールスポイントを延々と熱弁するという悪夢があった。確か、あの時もルビー色の液体をぐびぐび飲んでいた。
繰り返される最悪の事態を避けるべく、ワインを注ごうとする細い手を捕まえる。
「……分かった、私が飲むから。少し休憩して」
新人の子の前で、これ以上醜態を晒す尾崎は見てられない。この子、いつも記憶がすっ飛んで後悔しているから。
「うう〜スミしぇんぱいほんとすき〜」
途端にデレデレとする尾崎を片腕にぶら下げ、しまったばかりのスマホを取り出した。
【後輩を駅まで送ることになりそうです。なので、やっぱり迎えは大丈夫です】
百瀬くんへと送信を押してしまえば、変な緊張が解けどこか安堵した気持ちが広がる。
これでいい。第一、私達は迎えに来てもらうような間柄ではないのだから。
自分に言い聞かせるように冷静さを取り戻していくその片隅で、たった今高鳴っていた心は小さく萎んでいくようだった。



