焦がれる吐息





『場所、どこですか』

「いや」

『じゃあ、店の名前送っといてください』

「あの」

『着いたら連絡します、それまで店の中にいてください』

「百瀬くん、」

『兎に角、』


一層に凛とした声が、慌てる心に強い感嘆符を打つ。

初めてだった。


『今すぐ店の中に戻ってください。』


こんなにも強引な彼は初めてで、酷く動揺した私は最後までまともな言葉を出せなかった。

呆気なく通話終了を知らせる画面を見て、漸く頭を抱える。


「……ほんと、意味わかんない」


そう弱々しく零した自分の心が一番分からなかった。

避けたいはずなのに、百瀬くんの言葉一つ一つに、胸の高鳴りを抑えることができない。


百瀬くんが近づいてくるほど、迷路に迷い込む。

日に日に、彼が分からなくなる。

いつだって明確なのは、自分の鼓動の速さと、身体の火照りだけだ。



「(どうして、)」


その先の答えを見つけたくなくて、全てに蓋をするようにスマホをポケットへ。中途半端に止まっていた指で頼りない火を灯した。

トキメキを掻き消すように気晴らしを深く吸う。


けれどすぐに、脳内で彼の声が邪魔をしてくるから、まだ長い煙草をヤケクソに押し潰した。


思考も心も、確実に百瀬くんに占領されていく。

紫煙の代わりに重い溜め息を吐いた私は、大嫌いな夜空のことさえ忘れていた。