焦がれる吐息





……ヴーヴー…


じりじりと燃え焦げていく煙草の先を見つめていれば、ポケットが震えた。

ケンちゃんかな…といつもの癖で反射的に取り出し画面を見てすぐ、ぎょっとして声をあげそうになる。

何度瞬きを繰り返してみても、見間違いではない。

【着信 百瀬紫月】、手の中で主張し続けるその画面に胸の奥底が熱くなる。


送信、できてなかった?
いや、変な事を送ってしまった?


「………は、い」

『今、大丈夫ですか」


恐る恐る耳に当てた機械の向こうから、普段よりも更に色艶に深みを増した声が響く。たった一声だけなのに、馬鹿みたいに緊張する。


「えっと、はい、」

『……外ですか?』

「あー、今、煙草吸ってて……」


顔が熱い、上手く言葉が出てこない。

これは絶対、アルコールのせいだけじゃない。

別に悪い事をしているわけではないのに、やけに落ち着いた声に変にドギマギして、思わず着けたばかりの火をぐりぐり揉み消してしまった。


「あの、返事遅くなってすみません、」

『いやそんな事より……まさか、一人ですか』

「…?…一人ですけど?」



珍しく語気を少し強めたような百瀬くんに、首を傾げる。
 

百瀬くんは、家だろうか。片耳は静寂に満ち、空いた片耳で側の大道路を車がパシャパシャ走り去っていく音を拾う。

何故か無言の時間が流れはじめ、益々はてなが浮かぶ。


『……』


「百瀬くん?」


問いかけてみても返事がない。

電波が悪いのかと画面を確認しようとしたとき、漸く耳に届いたのは、深い溜め息のような音だった。


『……危機感とか、ないんですか』

「ん、なんて?」

『……何でもないです』



そして、百瀬くんの得意技が出てくる。電話でも百瀬くんは謎だ。顔が見えないからこそ、余計に何を考えているのか分からない。

結局、これは何用なんだ。

訝しげに眉を顰め、手持ち無沙汰な片手で煙草の箱を開ける。

肩と首でスマホを挟みながら、咥えた煙草に火を灯そうとしたところ。『…澄香さん』と静かに呼ばれ、ライターに掛けた親指がぴたりと止まる。


『終わったら、迎え行ってもいいですか』


心臓が、胸の外へ飛び出すように激しい鼓動を打った。驚いて、喉が塞がって、直ぐに言葉が出てこなかった。その隙に。



『すみません、言い方変えます』


『迎えに行きます』



百瀬くんは、有無を言わせないように矢継ぎ早に言葉を並べた。