焦がれる吐息





彼からの、初めてのメッセージだった。

連絡先を交換してみたものの、くることも、することもないだろうと勝手に思っていたのに。


『恋人繋ぎっていうらしいです』


不意に、脳裡に居据わる声が、沈めようと必死な心の水面にまた小波を立てた。

あの時、どういうつもりなのか、なんて聞く余裕さえなかった。手汗大丈夫だろうか、そんなくだらない事を考えていたような気もする。

記憶が曖昧なほどに一杯一杯で帰宅した私は、自室へ逃げ込み、夜が深くなるまでずっと引き篭もっていた。

深夜、お風呂上がりにこっそりと開けた冷蔵庫には、おつまみが丁寧にタッパに詰められていた。

それを目にした私の心は、優しく握りしめられるように切なくなった。

認めたくないトキメキと、苦しさと、逃げ出したいのと、もっと近づいてみたいのと。

相反する感情に引き裂かれて、どうしたらいいのか分からなかった。

今朝も、百瀬くんの部屋からは珍しく物音がしたのに一声も掛けず、急いでバイトに出て来てしまった。


ロック画面に表示されたメッセージを、開きもせずにただ見つめる。メッセージが届いた時刻は、丁度一時間前を示していた。

……私が避けていると、分かってるはずなのに。


「スミせんぱ〜い?」

「……ごめん、ちょっと」


煙草とライターを手にした私は、ふらふらと立ち上がる。不思議そうに上目で見つめてくる尾崎に胸の内を見透かされそうで、急いでその場を抜け出した。


たった一通なのに、どうしてこんなにも動揺してしまうのだろう。


入店する直前に見つけたスタンド灰皿を目指して、入り口の自動ドアのボタンを押す。

途端に冷え冷えとした外気に触れた。

静かな雨が街を包むように降り続いている。

そんな仄暗い夜空からは、無意識に目を逸らしてしまった。隅にあるスタンド灰皿の前に立った私は、もう一度画面をタップする。


もしかしたら、百瀬くんのことだからもう何かを作ってくれているかもしれない。私が家賃の代わりに料理を作ってほしい、なんて言ってしまったからだろうか。

申し訳なさを抱きながら、重い指先を動かす。


【飲み会なのですみません】


送信を押してすぐに、スキニーの窮屈なポケットにスマホを突っ込んで真っ先に紫煙を燻らせた。

濡れたアスファルトと混じり合う香ばしい匂いが、ほんの少し心を落ち着かせる。

お酒に強い方だけれど、煙草を吸うと何故かいつも酔いが回るのが早くなる気がした。体内にじんわりと溶け込んでいく煙が、思考回路を徐々に鈍くさせる。

今朝から身体が怠いせいか、彼のせいか、今日は特に心が宙に浮いているような感覚だった。