驚き振り向けば、澄香さんは未だに深く俯いていた。でもよく見れば、髪の隙間から覗く耳のふちが真っ赤に染まっている。
「…百瀬くんの隣に並ぶだけで、話すだけでもう精一杯なんです。なのにこれ以上近づかれたら、」
視界の隅で、膝の上に乗せられた小さな拳に、ぎゅと力が込められた。
「……心臓、壊れそうなので。あんまり近づかないでください」
「………」
「……百瀬くん?」
咄嗟に両手で顔を覆った。
自分なのかと疑いたくなるほどに身体が熱い。
「(……もう、可愛すぎてやだ。)」
無自覚だから恐ろしい。
抗えない彼女の魅力に、歯向かえない可愛さにまた溜め息を吐く。
あと、どれほど我慢すればいいのだろう。
あと、どれほど自分は我慢できるだろう。
「何で顔隠してるんですか?」
あと、どれほどこの気持ちを呑み込めばいい?
もうぎりぎりで、こっちこそ精一杯で。想いを伝えられないもどかしさに、やっぱり胸が焼け焦げるように苦しくなった。
でも、まだだ。確実に欲しいから。
振られる気なんて、さらさらないから。
「……何でもないです。」
何とか気持ちを押し沈めて手を下ろせば、不満げな彼女と目が合う。無意識なのか、唇をむっと尖らせ眉を寄せている。
妖艶でかっこいい普段とのギャップが、可愛くてたまらないってことも知らないんだからタチが悪い。
「でも、近づかないってのは無理です」
「え?」
「それこそ、俺の心臓が苦しいので」
緩やかに目尻を下げれば、彼女の白く滑らかな頬が淡紅色に染まる。そして、「やっぱり意味分かんない」と彼女は不機嫌に腰を上げた。
かと思えば、肩越しに振り向いて、
「……もう帰りましょう。ビール飲みたくてたまらないし、煙草も吸いたいし」
「すみません、買い物。俺のせいで、」
「いや別に。私が人混みに疲れただけなんで」
ツンと素気なく言い放つ端麗な横顔に、心臓がぎゅうと縮こまる。
ほら、全然分かってない。
貴女のさり気無い言葉が、優しさが心に沁みる。
いちいち、胸が熱くなる。
「…じゃあ、今日は残り物でおつまみ作ります」
「…お願いします」
そう言って彼女はまたそっぽ向いて早々と階段を降りようとするから、無意識にその背中に指先が伸びた。
「、?!」
こうして引き止めたのは何度目だろう。
くい、と彼女の肘あたりの服を柔く握り締める。
更に大きく丸くなった瞳を見上げて。
「手、繋いじゃ駄目ですか?」
「、」
「繋いで帰りたいんですけど」
たった今咎められたばかりだけれど、我慢ができなかった。



