焦がれる吐息




それは、夏の終わりかけ。

秋風のような涼しい空気に、息詰まるような侘しさを覚えはじめた頃。

日々、彼女への想いは肥大化している。
それでも、ただ見つめるだけだった。

途方もない憧れを抱いたまま、季節は一つ、過ぎ去ろうとしていた。


『スミちゃーん、またね〜』

『ぜったいまたきてね!!』

『次はいろんなシールがほしい〜〜!!』

『はいはい、ケンジに言っとく』


すっかり子供達に好かれている彼女は、小さな頭を豪快に撫でてから足早に門を出て行く。

夕陽に照らされたその後ろ姿を最後まで見届けてから、深い溜め息を吐きながらベットに沈んだ。

大雑把に締めたカーテンの隙間からは、夕日が一筋差し込む。その憂愁を感じる色に、静かに手を翳した。


『(……何も持ってない。何も無い。)』


空っぽな自分に、自嘲的な笑みが漏れた。

彼女はまるで、神様のように沢山の感情を授けてくれた。綺麗だなとか、可愛いなとか、心が擽ったくなる気持ち。喜び、淋しさ、もどかしさ。

そして、自分への不甲斐なさ、苛立ちも。

これまで現状をただ甘んじて受け入れてばかりで、大した努力もせずに適当に生きてきた。

援助と同情で今が成り立ってる。そんな自分が情けなくて、激しい後悔が募ったのも初めてだった。

下賤で、得体の知れない自分は彼女に近づけない。近づけるわけがない。

内に渦巻く熱いものを必死に押し沈めて、言い聞かせる毎日だった。

けれど、胸の辺りがずっと苦しい。


起き上がって前髪をくしゃりと乱暴に掻き上げる。

気を紛らわすように煙草の箱を手に取って、その軽さにまた溜め息を吐いた。ついさっき、最後の一本を吸ったばかりだった。

コンビニへ行こうと外に出れば、空は更に真っ赤な色に染まっている。

強く記憶に残る、焼け爛れた色をしていた。