『……かお、やばいよ』
いつのまにか膝に頬杖をついて彼女を観察していれば、又もや少年に呆れたように指摘される。
『……どんな顔してた?』
『へんたいな顔』
『(……まじか)』
静かに口元を手で覆った。じんわり、身体に熱を感じたのも初めてだった。
チリン、とまたひとつ風鈴が鳴る。そよそよと頬を撫ぜる風の感触が、やけに新鮮に感じた。
『……まあ…すきな子見たくなるきもち、わからなくもないけど…』
不意に、柔い風にまぎれてボソボソと恥ずかしそうな声が届く。振り向けば、少年はぎゅっと身体を縮めるように三角座りをして案の定恥ずかしそうにしていた。
『……女はきらい、というか、おなじ人間だとおもえないほど憎い……けど、』
『……』
『……おれにも一人、とくべつな女の子、いる』
すごく、あいたい子———そう、膝に口元を隠して呟いた少年。その瞳は、うるうると潤んだ光が宿っていた。
『そっか』
懲りずにわしゃっと漆黒の髪を乱せば『やめろって…!』と振り払われる。
そのタイミングで、職員が少年を呼びにきた。少年はぷいっと背を向けて、廊下の先へと去っていく。その手前。
『………アイス、ありがと…』
ボソッと呟いたその耳は、真っ赤に染まっていた。
その小さな背中に静かな笑みを返してから、もう一度、桜の木の下を見る。幼児達に腕を引っ張られている彼女は、何処かに連れて行かれているところだった。
困ったように眉を八の字に、でも口元は柔く綻んでいる。それを目に、キュン、とちいさな矢が刺さったように心の真ん中が苦しくなった。
いつ見てもどうしたって美しくて、眩しい。
『(……特別なひと。)』
彼女を瞳に、少年の言葉を繰り返してみれば、その響きは不思議なほど心にしっくりと収まった。



