『女、むりなんじゃないの』
はっと夢から目覚めたように隣を見る。少年の呆きれたような眼差しに、自分が彼女に見惚れていたことに漸く気がついた。
『さっきいってたじゃん、おれと同じって』
『……あー、ね、』
他人事のようにぼんやり答えながらも、つい彼女のほうに視線を戻してしまう。どうしてか、凄く気になる。一瞬の隙もなく、彼女を瞳に閉じ込めたくて仕方がなかった。
『ねえねえ、アイツさ、なんで男なのに女みたいな話し方なの?普通に変じゃん』
その時ちょうど、輪にいた一人が彼女に問い掛けていた。素朴な質問。それに同調する声が幾つも重なる。そのどれもが無邪気で、残酷な響きだった。
流れ的にも、当たり前のように怒るだろうと思った。
けれど彼女は、問い掛けた子供の目線に合わせるようにゆっくりとしゃがんで。子供の両手を壊れ物のように掬い上げて包み込んだ。
『世界にね、普通は何通りあってもいいの』
木漏れ日の下、光のカケラを集めた彼女の瞳はとても優しげに輝く。
『色んな形の普通を受け入れていったら、君の世界はもっと広がるよ』
『……い、みわかんねーし……』
『じゃ、分かる大人になりな』
顔を真っ赤に戸惑う子供に、彼女は口端をゆるりと持ち上げて誘惑的に笑う。
それに思わず、ふっと、息を吐くような笑い声が自然と漏れた。
『(………すげえ、綺麗)』
一番に芽吹いた感情は、キラキラと輝く発光体となって胸の内を照らした。
彼女を見ていると、簡単に心が動いてゆく。鼓動はうるさいのに、それがとても心地良かった。



