『しーちゃん、たばこ買いにいくの〜?』
『そ、内緒な』
施設の門を出る一歩手前、駆け寄ってきた小さな頭をわしゃっと撫でる。『ふふ、わかってるよお〜』と無邪気な笑みを浮かべるケイトに見送られて、コンビニへと向かう。
6連勤明け、ベットに張り付いていた身体を漸く起こしたのは昼過ぎ。
『125番、二つ』
仕事をクビになってから数ヶ月、外の世界で口を開くのは店員に銘柄を告げるその時だけになっていた。
黒いキャップを目深に被り、地面ばかりを見ながら足早に歩く。施設に戻って幼い子供達に声を掛けられても、ひらひらと後ろ手を振って自室に篭る。
煙草を何本か吸って、またベットに横になる、そうして夜を迎えて、また朝が訪れる。
——— その日も、そんな代わり映えのない日常を過ごす、はずだった。
『お、紫月、ちょうど良いところに』
それは、部屋に戻る途中、園庭が広く見渡せる縁側を歩いているときだった。
ばったり鉢合わせた施設長は、分かりやすく顔を輝かせた。煙草が入ったコンビニの袋をさり気なく後ろに隠して。そっと逸らした視線の先、施設長の一歩後ろにいた一人の少年と目が合う。
『この子、一時保護。すぐ親戚の方が面会にくるから一緒に待ってやってくれないか。今日休みでどうせ暇だろ』
『……他の職員は?』
『お前と同じで女が駄目なんだとさ。な、すぐ呼びに来るからよろしく』
ぽん、と肩を叩いてきた施設長は携帯片手に忙しそうに去っていく。
急に任された少年は、虚ろな瞳で園庭をただ見つめていた。小学低学年くらいだろうか。泣き腫らしたような真っ赤な目元、痩せ細った身体は痣だらけだった。
その姿を目に、頸を掻きながら深い溜め息を吐く。
『……アイス、食べる?』
徐に、買ったばかりの棒付きアイスを取り出した。虚ろな瞳が少しばかり見開く。それに柔く目尻を下げて『ほら』と急かせば、傷だらけの腕が恐る恐る伸ばされた。
『ここ、座って食べたら』
縁側に腰を下ろして、とん、と隣りを叩く。少年は眉を寄せて嫌そうにしながらも、静かに肩を並べた。



