焦がれる吐息




「はああぁ〜ん……」


深い、深い、溜め息。

わざとらしいそれは、もう何度目か。


心底鬱陶しいと、今しがた咥えたばかりの煙草をそのままに眉間に皺を刻む。



使い捨てライターで火をつけて、深くひと吸い。

胸の奥に広がる香ばしさと一緒に、メンソールの刺激がツンと鼻の奥に突き刺さる。



ふう、と気怠げな煙を吐いて、のんびり睫毛をあげた。


「……なにさっきから」

「漸くツッコんでくれたわね…!!」



ダンッ!っと勢い良くテーブルが揺れる。

おかげで、カラン…とひとつ、空のビール缶が倒れた。

いち、に、さん、し……ガラステーブルの上は、数えるのもダルいほどの空き缶とつまみの残骸で散らかっていた。ちゃんと片付けてたのは、たぶん一時間前まで。


そんな散らかったテーブルに両手をついてこちらに身を乗り出してくる顔に、そっぽ向いて煙を吐いた。


「聞いてほしいならそう言いなよ」


「だってえーん!スミちゃん、いつも話しはじめたら寝ちゃうんだもの〜ふほほ、でも聞いてくれるのね?やっと乙女の悩み聞いてくれるのね?」


「……やっぱやだ」



数本転がる灰皿の淵に灰をトントンしながら、スマホで時刻を確認すれば日付を跨いで少しのところだった。

強引にはじまったサシ飲みは、三時間目に突入。

目の前で繰り返される大袈裟な溜め息にとうとう突っ込んでしまったけれど、やっぱり聞きたくない。

どうにか回避しようと「てか、」と、ゆるりと視線を投げた。



「髭、生えてきてるよ」

「へ!?」


途端に阿呆面になったその顔に、静かに煙をひとつ返せば。

自称乙女は、ばっ!と、顎に手を当てて肌身離さず隣に置いている黒革のセカンドバックを漁り始める。


コンパクトな手鏡を掲げて、



「あらやだ、やっぱり深夜はダメねえ〜」



はあん…と哀愁漂う溜め息を吐くこのオネエ、5つ歳上のいとこ、三輪健二《みわけんじ》、通称ケンちゃん。


見た目はツーブロ金髪、日サロ通いのごりごりイカつい男だけど、心は乙女、美男子が大好物。


男の目利きセンスは抜群で、その才能を活かして今や某大手芸能事務所の代表取締役だ。