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「昨夜、都心でこの冬2度目の雪を観測しました。雪は早朝まで降り続き、3センチの積雪を確認しています。」

週明けの月曜日。歯ブラシ片手にベッドに腰掛け、ぼんやりとニュースを眺める。起きた後、少しカーテンを開けて外を見たらアパートの前の道路がうっすら白くなっていた。防水のブーツ、どこにしまったっけ。

「積雪により、路上が大変滑りやすくなっています。転倒による怪我に十分注意して…」
「滑りやすい路面を歩くコツを紹介します…」


(たった3センチ積もったくらいで大騒ぎして、バカらし。)

立ち上がって洗面台に向かい、口一杯になった泡を吐き出す。ちょっと路面が白くなったくらいは、積もったうちに入らないんだよ。歩くごとに膝まで埋まるひんやりとしたあの感覚を思い出して、まだ雪の話題を賑やかに報じているニュースキャスターを嘲笑った。


さて、支度完了。今日も頭から足まで真っ黒なセンスのかけらもないコーディネートだ。もちろん黒のコートを着て、下駄箱から黒いブーツを探し出して、履く。コートかけに無造作にかけられたマフラーを手に取った。これだけは鮮やかな赤い色。環と出掛けた時に、似合うからと無理やり買わされたのだ。

「さむっ」

外に出た途端頬を刺す寒さに身震いする。アパートの古びた危うい階段を降りると、べしゃりと濡れた雪の感触が足に伝わってききた。
空からは塵のような雪がちらついているけれど、地面に落ちた途端に濡れた路面に溶けていく。この分だと明日明後日くらいには雪は跡形もなく消えているだろう。