「環《たまき》…痛いんだけど。」

力一杯叩きやがって。まだジンジンと痛みを引きずる後頭部を労るように、無造作な黒髪をさすった。

「今日もさみーよなぁ。明後日の夜から月曜の朝にかけて雪だって。電車止まったらさぼれっかな?」

僕の様子を全く気にすることもなく、1人で喋り続けながら校舎に入っていく環。僕もブツブツ文句を言いながらそれに続いた。


「環は大学のすぐ近所に住んでるじゃん。サボれるわけないだろ。」
「あは、やっぱり?じゃ、臨時休校とかどう?」
「ないない。どうせ土日とも飲み会だろ?降っても降らなくても来る気ないだろ。」
「バレたか。」

環も僕と同じで、具体的な将来の夢も目標もない。東京への憧れだけで進学してきた。だけど、毎日のように飲み会にバイト、合コンに季節ごとのレジャー…と全力で今を楽しんでいる。


“東京に逃げた”ではなく“東京に行きたくて来た”。ここが僕と全く違うところで、ここでの暮らしを鮮やかにしている要因なんだろう。


逃げて来た僕の毎日は、退屈でモノクロだ。