雪の精霊

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「いよいよ卒業、春から社会人かぁ…ダリィなあ。」

そんなことを言いながらも、スーツでビシッと決めた環は来春から大手製薬会社に就職を決めたエリートだ。就活のために染めた黒髪も、なかなかサマになっている。派手で個性的な環の方が、彼らしくはあったけれど。


「香奈さんのためにバリバリ働くんだろ?結婚するときは教えてくれよ?」

「ウィ、頑張りまーす。」

“香奈さん”のワードに環は大人しく敬礼する。香奈さんとは2年生の秋頃から付き合い始めて、スッパリ一途な男になった。仕事が落ち着いたら入籍するらしい。


環の人生は相変わらず華やかで明るい。バカみたいと強がっていたこともあったけど、羨ましかったんだと今なら素直に認められた。



「しっかし、悠人はすげぇよなぁ。1年の時、急に大学辞めるって言ったかと思ったら、ウチの医学部に入り直してるんだもんなぁ。」

「入るのに2年かかったけどね。」




そう、今日の卒業式での僕は環達卒業生を送る側。

僕はあの日、東京にトンボ返りして学生課に退学届を提出した。