雪の精霊

「…手術して、ユキの心臓が良くなったら。」

握ったユキの手を優しく撫でる。涙の海は決壊して、白いシーツに滲んでいった。




「僕の生まれた街に、一緒に行こう。」


ユキの顔はもうぐしゃぐしゃだ。縋るように必死に僕の手を握りながら、隠すことなく鼻をすすって泣いている。



そんな姿だって、精一杯生きているユキの証。誰よりも綺麗だと思った。



初めて会ったあの日、雪の中をくるくると回るユキを思い出す。
白くて儚い、触れたら壊れる雪の結晶のような、浮世離れした女の子。

認めたくなかったけど、僕はあの時から彼女に心を奪われていたんだ。




「…雪、は…まだ積もってる?」

空いていた片手で、強く目を擦るユキ。しゃくり上げながらやっとの思いで出てきたセリフに、思わず笑ってしまった。


「あるよ。余裕。まだ2月だもん。」


僕の言葉に、泣き腫らした赤い目を細めてユキは綺麗に笑った。


「行く!元気になって、絶対に。」


握り合っていた手をどちらからともなく解いて、代わりに小指を絡ませ合う。




「約束。」



そう言って僕らは、笑い合った。