雪の精霊

「いっつもいっつも同じ格好。いつもいつもつまんなそう。

…そんなにつまらないなら、君の人生私にちょうだい!って思ってた。」


言葉に似合わず、ユキの表情は優しい。


“いつも見てた。”

初めて話したあの日、ユキはどんな気持ちでそれを言ったんだろう?

見たいもの、行きたいところ、したいことが山ほどあるのに、それを許す時間がないユキの目には、ただ時間を持て余して食い潰していた僕はどんなふうに映っていたの?


「今日こそ一言もの申してやる!って思った日、すごい寒い日でね。路面がツルンツルンだったみたいなの。」


いつかの言葉とリンクする。前は聞き流したそのセリフを、今度は言葉の裏まで漏らさない様に耳を澄ませた。


「みんながペンギンみたいになってる中、あの人はどんな風なんだろう?滑って転んじゃえ!って思ってた。
なのに、その人、いつも通りなの。いつも通り、つまらなそうに歩いているの。」

明るいユキの声だ。否定も拒否も嫌な感情が何もない、楽しいと好きと幸せが詰まったユキの声。


「ロボットみたい!カッコいいって思った。ついさっきまで病気のことでドロドロに暗かったのに、どうでもいいくらい笑えて、元気になった。」

力のないユキの手が、優しく僕の手を握り返す。暖かくて血の通った、人間の手だ。


「だからね、その人と話してみたいと思った。
そしたらなんと!月曜日に雪まで降って、これは神様が行けって言ってる!って思った。…だから、嘘の私を作ってこっそり病院を抜け出した。」


初めて会ったあの日、ユキは僕に会いにきてくれていたんだ。


キテレツの思いに触れて、ジンと胸が揺さぶられた僕はきっとどうかしてしまったんだ。