雪の精霊

ついさっきとは矛盾した答えに、環は何も言わずに歩き出した僕を見送った。






そう、ユキが雪女ならよかったんだ。



あの数週間は雪女が見せた幻で、僕を弄んでからかって、飽きたからどこか遠い雪山に帰っていった。

だからユキは僕の前から消えたけど、僕の知らない場所でまた幸せに笑っている。



そうだったらよかった。






歩く足はどんどん速くなっていく。白い壁に沿って走って、たどり着いた無機質な自動ドアを潜る。
受付のスタッフに必要なことだけ聞いて、また走る。なかなか降りてこないエレベーターに憤って、上階を示すボタンを連打した。

点滴を刺し車椅子に乗った老人が、僕を不審な目で見ている。

シンプルな403の部屋番号の隣には、君の名前。


「ユキ。」

カーテンを開ききった窓からは、あのベンチと僕の校舎まで伸びる煉瓦造りの道がよく見える。
真っ白でつまらないベッドに、純白の君が退屈そうに足を伸ばして座っていた。




そう、ここは大学の附属病院。



本当のユキがいる場所だ。