雪の精霊

その次の日もまたその次の日も、ユキがあの場所に姿を現すことはなかった。
そしてまたその次の日。朝から僕は講義にも出ず1人ベンチに座ってユキを待っていた。


「鼻水垂れてるぞ、笠地蔵。」


3時間目が終わった後、見かねた環が笑いながら僕の隣に座った。
待ち人ではないド派手な赤髪を一瞥して、また前を向く。


「無視かよ!…知ってるぞ、お前が例の雪女に誑かされてるってこと。」

多分わざと挑発しているのだろう、環が僕とユキが並んで座っている隠し撮りを僕の顔の前に突きつけてきた。


「…ユキは人間だった。看護学部の2年生。」
「…看護学部の2年どころか、1年にも2年にも3年にもそんな奴はいないぞ?」

眼前に突きつけたスマホを上下に振って、環は静かにそう言った。


「何も言わないってことは知ってた?じゃあなんで探しもしないで毎日毎日講義サボって、ずっとここにいるんだよ?」

環の揺さぶりには動じない。
僕は黙って立ち上がり、環のことを見下ろした。







「ユキは、雪女だったから。」