雪の精霊

それから毎日、僕とユキはあのベンチで待ち合わせるようになった。何を示し合わせる訳でもなく、大体ユキは僕が来る前にはそこにいて、講義が始まる前や昼休みの中頃には解散する。
短くて数十分、長くて1時間くらいの時間を、僕達は毎日共有した。


そして、2週間経った今日も僕らは暖かい缶飲料片手に並んで座っている。


「今日は日差しがあったかいねー。」

柔らかい陽光に目を細めて、ユキが笑う。雲ひとつない快晴に、ユキの白金色の髪がキラキラと反射して眩しいくらいだ。

「あったか過ぎて寝ちゃいそう〜。日向ぼっこしながら昼寝とか、最高じゃない?」

「まだ冬だし普通に風邪ひくよ。」

「夢がないなぁ。」

伸びをしてベンチに寝転ぶように体を傾けたユキが、あはは、と笑いながら体勢を戻す。

「みんながせっせと勉強してる中でさ、私達だけ抜け出して、ぽかぽか陽気に包まれながらうたた寝なんて、幸せじゃん。」


ユキと話すようになって、気づいたことが2つある。

ひとつは、ユキは不思議な感性を持っていること。
例えば、今日の様な柔らかな陽気。凍った水溜り。寒そうだからあげたホッカイロ。ポケットから出てきた飴玉一つにさえ、「幸せだ」と感動する。
ユキの口から嫌な言葉はひとつもでなくて、全てが楽しい、好き、幸せに繋がる。ユキは不思議な人間だ。

もうひとつは、ユキの癖。
愛おしむ様に話した後、必ず胸に手を当てて目を閉じる。
目を開けて顔を上げるまでのほんの一瞬だけ伺わせる儚さに、僕はいつも目を奪われた。