雪の精霊

「ハイ、どーぞ。」

ここはうちの学部の校舎の中にあるカフェスペース。一昨年改修工事したばかりのエリアで、綺麗でモダンな落ち着いた雰囲気のここは医療系の学部生の憩いの場だ。


「ありがとう!…うわぁ、あったかーい。染みるーぅ。」

缶に入ったホットココアを受け取ると、ユキは両手でそれを握りしめて目尻を垂らした。ユキは缶の熱でしばらく暖をとった後、プルタブを開けて一口。「甘い、おいしい」とはしゃいでいる。


「ココアくらいで、大袈裟な。」

グルメリポーターばりの大リアクションに、僕は乾いた笑いを漏らす。ユキの奇抜な見た目は多分雪女事件のこともあり目を引くようで、周りの人はちょいちょい振り返るけど気にならなかった。

僕に知り合いが少ないから、見られてもまあいいやっていうのもあったけど。

「寒い時に飲むココアは格別なんだから!飲むと喉もお腹もじーんとあったかくなって、甘くてホッとして、幸せになれるんだから。」


やっぱり大袈裟。寒い時に暖まるのはわかるけど、それで幸せを感じられるなんて、なんてお手軽な幸せなんだ。

…なんて、ユキの幸せそうな笑顔に皮肉る僕はひねくれているんだろう。無邪気なユキの前だと、卑屈な自分が浮き彫りになる気がして、少し居心地が悪かった。