雪の精霊

こんな短い距離でも、全力疾走すれば疲れる。荒く浅い呼吸をそのままにしているのは、怒っているアピールでもある。
下を向いて寒さに凍えるダメな雪女の前で、僕は立ち止まった。


「なんでいるんだよ。」


気の立った僕の声に、ユキはハッとしたように顔を上げる。怒りを露わにしたつもりだったのに、ユキの表情はみるみるうちに明るくなった。

「悠人くん!」


鼻が赤い。耳も赤い。頰も指先も、全部赤い。
一体いつから待っていたんだろう?



こんなになるのに雪女なワケがない。

ユキは、人間だ。



「何、その包帯。」

ふと、黒いショートブーツから覗く不格好に解けかけた包帯を指差す。ユキは恥ずかしそうに何度も瞬きをした。


「あっ、コレ?足が霜焼けになっちゃって。…薬塗ったから包帯してみたの。」

「看護学生のくせに、応急処置ヘタ過ぎない?」

「こっ…これから上手くなるからいいの!」


腰に手を当ててふん、と鼻を鳴らすユキ。忙しい表情の変化も、悪くないと思った。