雪の精霊

瞬間、回れ右をして逃げ出そうとしたのにガッチリ肩を掴まれる。瞬発力のなさをこれほど恨めしく思ったことがあるだろうか。

「どうして逃げるの?」

白く細い手は見た目以上に力が強い。僕は振り返らないまま、ボソボソと口を開いた。

「…スミマセン、どなたかと人違いしていませんか。」

「人違いなんてしてないよ!その真っ黒な服装と赤いマフラー!そんなセンスしてるの君しかいないもん。」


ゔっ、もう反論できない。


「ちょっとそこで話そうよ。」

僕の肩を掴んだまま、雪女はもう片方の手で校舎横の広場にあるベンチを指差す。断ることのできない気弱な自分を呪った。



「私は葉山《はやま》 ユキ、20歳。看護科の2年生。君は?」

濡れてないとはいえ冷たいベンチと、外気に凍えるように縮こまる。

っていうか20歳(ハタチ)って。2年って。年上だったのかよ。信じられない。

頭から足まで白い突飛な見た目と、幼さの残る面立ちとのギャップに密かに驚く。今日はケープの下は臙脂のスカートだったけど。