高校2年生になって、私は彼と出逢いました。それは私にとって、少女漫画のように運命的な出逢いでした。あのときめきは、今でも忘れられません。今でも、彼のことを忘れられません。
高校2年生になった初めの時期。私は、先生にクラス全員分の教材を運ぶように指示を受けました。積み重なった冊子は重く不安定でしたが、なんとか運べない重さではありませんでした。重いのを我慢して、私は1階の職員室から、3階の教室まで、一生懸命に運んでいました。
ヨタヨタと歩き続け、階段に差しかかったとき、進むのが更に難儀になりました。抱えている冊子で足元が見えないのです。一段一段慎重に階段を上っていきましたが、序盤の時点で弱音を吐きたくなるくらいでした。荷物を置くことも、休憩することもできないからです。
プルプルと腕を震わせながら2階に到達する直前、後ろから声をかけられました。男子の声なのは分かりましたが、振り向けないので誰かは分かりません。「大丈夫?」という言葉に、「……ダメかもです」という情けない返事を返すことしかできませんでした。
「半分持つよ」
そう言って彼は、私の隣に現れました。
私が有無を言う前に、彼は私が抱える荷物を半分以上減らしてくれて、「どこへ運ぶの?」と聞きました。クラスを伝えると、「一緒だね」と笑って、私の先を歩いてくれました。
教室に着いて荷物を置いて、お礼を言ったとき、そこで初めて彼が背丈の高いクラスメイトであることに気づいたのです。階段で話しかけてくれたときは、段差で視線を合わせてくれていたのでしょうか。私は気づかない間に、彼の紳士的な心遣いに惹きつけられていました。
こんな風に胸が高鳴るのは初めてでした。彼のことが気になって、学校にいる間、彼の声が聞こえるとつい目で追ってしまいます。彼と話したいし、私も彼に見られていたい。こい願わくば、彼と触れ合ってみたい。そんな妄想が捗って仕方ありませんでした。これが恋というものなのですね。
私が彼を意識してしまうみたいに、彼にも私を意識してほしいと思ってしまいました。慣れないお化粧を、校則を破らない範囲で頑張ったり、髪型とかアクセサリーとかを選んでみたり。デートをするわけでもないのに、可愛くなりたいって思うようになりました。もしかしたら変化に気づいて、また振り向いてくれるのではないかと期待して。
けれど、淡き初恋は、儚くも脆かったのです。彼には既に、お相手の方がいらっしゃいました。いつもその方といて、よく喋っている。私が入り込む隙はありませんでした。
あわよくば彼の恋人に。そう思ったのは、高望みだったのでしょうか。私に咲いた恋心を彼が鑑賞してくれるなら、私は何度だって美しく咲いてみせます。けれど、彼には手向けられた花がありました。強く恋の根を生やして動けない桜の樹は、諦めの花びらを散らしていく。この恋を風化させていくしかありません。心がきっぱり離れられるはずはないのですから、このまま諦めるなんてできないのに。いっそ枯れてしまえば楽なのでしょうか。
お相手さんの邪魔をしない距離で、私は咲いていてはいけませんか。満開になったこの恋心が、いつか散り果ててくれるその時まで。
高校2年生になった初めの時期。私は、先生にクラス全員分の教材を運ぶように指示を受けました。積み重なった冊子は重く不安定でしたが、なんとか運べない重さではありませんでした。重いのを我慢して、私は1階の職員室から、3階の教室まで、一生懸命に運んでいました。
ヨタヨタと歩き続け、階段に差しかかったとき、進むのが更に難儀になりました。抱えている冊子で足元が見えないのです。一段一段慎重に階段を上っていきましたが、序盤の時点で弱音を吐きたくなるくらいでした。荷物を置くことも、休憩することもできないからです。
プルプルと腕を震わせながら2階に到達する直前、後ろから声をかけられました。男子の声なのは分かりましたが、振り向けないので誰かは分かりません。「大丈夫?」という言葉に、「……ダメかもです」という情けない返事を返すことしかできませんでした。
「半分持つよ」
そう言って彼は、私の隣に現れました。
私が有無を言う前に、彼は私が抱える荷物を半分以上減らしてくれて、「どこへ運ぶの?」と聞きました。クラスを伝えると、「一緒だね」と笑って、私の先を歩いてくれました。
教室に着いて荷物を置いて、お礼を言ったとき、そこで初めて彼が背丈の高いクラスメイトであることに気づいたのです。階段で話しかけてくれたときは、段差で視線を合わせてくれていたのでしょうか。私は気づかない間に、彼の紳士的な心遣いに惹きつけられていました。
こんな風に胸が高鳴るのは初めてでした。彼のことが気になって、学校にいる間、彼の声が聞こえるとつい目で追ってしまいます。彼と話したいし、私も彼に見られていたい。こい願わくば、彼と触れ合ってみたい。そんな妄想が捗って仕方ありませんでした。これが恋というものなのですね。
私が彼を意識してしまうみたいに、彼にも私を意識してほしいと思ってしまいました。慣れないお化粧を、校則を破らない範囲で頑張ったり、髪型とかアクセサリーとかを選んでみたり。デートをするわけでもないのに、可愛くなりたいって思うようになりました。もしかしたら変化に気づいて、また振り向いてくれるのではないかと期待して。
けれど、淡き初恋は、儚くも脆かったのです。彼には既に、お相手の方がいらっしゃいました。いつもその方といて、よく喋っている。私が入り込む隙はありませんでした。
あわよくば彼の恋人に。そう思ったのは、高望みだったのでしょうか。私に咲いた恋心を彼が鑑賞してくれるなら、私は何度だって美しく咲いてみせます。けれど、彼には手向けられた花がありました。強く恋の根を生やして動けない桜の樹は、諦めの花びらを散らしていく。この恋を風化させていくしかありません。心がきっぱり離れられるはずはないのですから、このまま諦めるなんてできないのに。いっそ枯れてしまえば楽なのでしょうか。
お相手さんの邪魔をしない距離で、私は咲いていてはいけませんか。満開になったこの恋心が、いつか散り果ててくれるその時まで。
