~シーン2~
白い空間に沙耶が立っている。その空間は、どこまでが壁でどこまでが天井なのかも判別できないほど、ただ純粋な白で満たされていた。
「……どこ、ここ。」
沙耶は周囲を見回す。
「なにこれ、真っ白。病院でもないし、夢でもなさそう。」
「……あれ、私、確かさっき……激しい衝撃に遭って、体が弾け飛ぶような……。」
胸の奥がざわつく。けれど、恐怖も痛みもない。ただ、“生きていた感覚”だけが、まだ抜けずに残っていた。
その思考を遮るように、ゆったりとした足取りで案内人が現れた。
「あ、どうもどうも。長旅、お疲れさまでした~。」
「えっと……誰?」
沙耶は警戒心を露わにする。
「魂の死後対応係、案内人でございます。あなたの担当です〜。」
「なにそれ。派遣?」
「まぁ、魂の交通整理を滞らせないための人員ってことで。私は整理係みたいなものですかね。」
案内人は手元に巻物のようなものと、一見タブレットのようなものを取り出した。
「お名前は沙耶さん。二十四歳。死因は交通事故。うん、記録通りです。」
「ちょっと待って……。死んだって、私、今……生きてる感じだけど。」
「ですよね〜。大体みなさんそうおっしゃいます。『えっ、私、死んだっけ?』って。」
「……それ、本当に言ってる?」
「はい、テンプレ化してます。でも、大丈夫。あなたの魂はしっかりここにあります。ちょっとした手続きが残ってるので、それを先に。」
「手続き?まさか、あんたのボスとか出てくる感じ?」
「ボスって言い方はちょっと……。まぁ、私の“古い友人”ですね。」
沙耶は呆れたような目で案内人を見返した。
「……神、ってこと?」
「はい。昔からの付き合いなんですよ。あの人、人付き合い苦手なんで、私がサポートしてるんです。」
「神がコミュ障って……もう、なんか色々バグってる。」
「ふふ。おかげで長く一緒にやってます。……さて、そろそろ呼びましょうか。」
案内人は、手を組み門に向かって一礼した。
「神よ。魂が一つ、門の前にございます。——面談、お願いいたします。」
空気が変わった。風が渦を巻き、光が降る。世界が、誰かを迎える準備をしているのが、肌で分かった。先ほどとは打って変わり、荘厳なローブ姿の神が登場した。その表情は無表情で、絶対的な威厳に満ちている。
「……ようこそ、天地の門へ。」
「……って、ちょっと固すぎたかな。この言い方。」
神はローブを脱ぎ捨て、再び軽装の、気の抜けた姿に戻った。
「あれ?思ってたのと違う……。神って、もっと偉そうでドーン!って感じかと。」
「あ〜、昔はそういうのもやってたけどね。……性格的に飽きちゃってさ。こっちの方が話しやすいでしょ?」
「なんか、調子狂うわ……。」
「まあ、それが狙いだったりもするんだけど。……さて、君には『ちょっとした課題』があるみたいでね。面談、付き合ってもらうよ。」
沙耶は訝しげに眉をひそめた。
「なんか、『面談』っていうか、『説教』って感じするけど。」
「ん〜……そうならないようにしたいんだけどねぇ。……キミ次第、かな。」
白い光の中、二人の姿はゆっくりとフェードアウトしていった。
白い空間に沙耶が立っている。その空間は、どこまでが壁でどこまでが天井なのかも判別できないほど、ただ純粋な白で満たされていた。
「……どこ、ここ。」
沙耶は周囲を見回す。
「なにこれ、真っ白。病院でもないし、夢でもなさそう。」
「……あれ、私、確かさっき……激しい衝撃に遭って、体が弾け飛ぶような……。」
胸の奥がざわつく。けれど、恐怖も痛みもない。ただ、“生きていた感覚”だけが、まだ抜けずに残っていた。
その思考を遮るように、ゆったりとした足取りで案内人が現れた。
「あ、どうもどうも。長旅、お疲れさまでした~。」
「えっと……誰?」
沙耶は警戒心を露わにする。
「魂の死後対応係、案内人でございます。あなたの担当です〜。」
「なにそれ。派遣?」
「まぁ、魂の交通整理を滞らせないための人員ってことで。私は整理係みたいなものですかね。」
案内人は手元に巻物のようなものと、一見タブレットのようなものを取り出した。
「お名前は沙耶さん。二十四歳。死因は交通事故。うん、記録通りです。」
「ちょっと待って……。死んだって、私、今……生きてる感じだけど。」
「ですよね〜。大体みなさんそうおっしゃいます。『えっ、私、死んだっけ?』って。」
「……それ、本当に言ってる?」
「はい、テンプレ化してます。でも、大丈夫。あなたの魂はしっかりここにあります。ちょっとした手続きが残ってるので、それを先に。」
「手続き?まさか、あんたのボスとか出てくる感じ?」
「ボスって言い方はちょっと……。まぁ、私の“古い友人”ですね。」
沙耶は呆れたような目で案内人を見返した。
「……神、ってこと?」
「はい。昔からの付き合いなんですよ。あの人、人付き合い苦手なんで、私がサポートしてるんです。」
「神がコミュ障って……もう、なんか色々バグってる。」
「ふふ。おかげで長く一緒にやってます。……さて、そろそろ呼びましょうか。」
案内人は、手を組み門に向かって一礼した。
「神よ。魂が一つ、門の前にございます。——面談、お願いいたします。」
空気が変わった。風が渦を巻き、光が降る。世界が、誰かを迎える準備をしているのが、肌で分かった。先ほどとは打って変わり、荘厳なローブ姿の神が登場した。その表情は無表情で、絶対的な威厳に満ちている。
「……ようこそ、天地の門へ。」
「……って、ちょっと固すぎたかな。この言い方。」
神はローブを脱ぎ捨て、再び軽装の、気の抜けた姿に戻った。
「あれ?思ってたのと違う……。神って、もっと偉そうでドーン!って感じかと。」
「あ〜、昔はそういうのもやってたけどね。……性格的に飽きちゃってさ。こっちの方が話しやすいでしょ?」
「なんか、調子狂うわ……。」
「まあ、それが狙いだったりもするんだけど。……さて、君には『ちょっとした課題』があるみたいでね。面談、付き合ってもらうよ。」
沙耶は訝しげに眉をひそめた。
「なんか、『面談』っていうか、『説教』って感じするけど。」
「ん〜……そうならないようにしたいんだけどねぇ。……キミ次第、かな。」
白い光の中、二人の姿はゆっくりとフェードアウトしていった。



