8月
○榎本のバイト先のカフェ
バイト初日、スタッフルーム。
白シャツにデニムの腰エプロン姿の清華。
榎本「吾郷ちゃん、制服似合ってるね!」
同じ制服姿の榎本。
清華「ほんと?ありがとう」
榎本「レジ対応は俺たちがするから、吾郷ちゃんは注文聞くのと運ぶのよろしく」
清華「うん、分かった」
榎本「分かんないことや困ったことあったら遠慮なく言ってね。フォローしにいくから」
清華「ありがとう、心強いよ」笑顔
頬が少し染まる榎本。

清華が一生懸命接客するシーンいくつか。榎本がフォローするシーンも。

夕方、勤務時間を終えスタッフルームにいる清華。私服姿。
清華「ふぅー…」
(疲れたぁー)
榎本「お疲れ!」
榎本が入ってきた。
清華「お疲れ様」
榎本「どう?明日以降もやれそう?」
清華「うん、慣れてないから大変なこともあったけど、楽しかったし」
榎本「それはよかった」
清華「たくさんフォローしてくれてありがとね。えのもっちゃん、動きもスムーズだし、ずっと笑顔で接客してて、本当に凄いなって思った」
榎本「めっちゃ褒めてくれるじゃん。…俺もまだまだ初心者だけどさ、接客するの楽しいんだよね。あ、着替えるの待ってくれたら一緒に帰れるけど」
清華「あ、たぶん迎えが来てるから…」
榎本「あぁー…」隼人のことだと察する。
「立ち仕事で疲れてると思うから、今日はゆっくりお風呂で疲れとってね。じゃ、また」
清華「うん、ありがと。お疲れ様」
出て行く清華。
1人になった榎本は明らかに気分が下がっている。
榎本「彼氏じゃないのに…」ぼそっと。

カフェの外に出ると、スマホを見ながら隼人が待っていた。清華に気づく。
隼人「お疲れ」
清華「お疲れ様です。…明るい時間に終わる日は暑いし、迎えなくて大丈夫ですよ?」
隼人「明るさとか関係ないよ」
清華「…。」

○夜、リビング
お風呂後、ソファに座りテレビを見る2人。清華は半袖、ショーパンのルームウェア姿。
清華(一緒に生活し始めて約2週間。思ったより快適に過ごせている。お兄はバイトや遊び、喧嘩?で家に帰って来るのが夜遅いことも多かったから、毎日朝や夜に顔を合わせることが新鮮だ。気まずさでそれぞれの部屋に籠ると思ったけど、こうしてリビングで一緒に過ごすことが多いのも意外)
チラッと横にいる隼人を見る。隼人の横顔。
視線に気付いて目が合う。
隼人「…脚かして」
清華の両脚をソファにあげる。自分も片足をソファに乗っける。
モミモミ…脚をマッサージし始める。
清華(!?)
隼人「立ち仕事疲れるよね」目線は下
清華「…ありがとうございます」照れている
(何でだろう…どこかお兄に似てるからかな。ドキドキするのに安心する)
清華「あの…先輩はいつ兄と知り合って、いつから私のこと知ってるんですか?」
隼人「…どっちも同じ日だよ」
清華「同じ?」
隼人「俺たち3人…6年前に出会ってるから」
清華「…え」驚く顔アップ
(私も…?)

過去回想
○6年前
清華は小4、隼人は小5、勇清が高2の時。

隼人(俺の母親はシングルマザーで、物心ついた頃には、いわゆる育児放棄をされていた。最低限の食い物と金だけ置いて、家にはほぼ居なかった)
ボロいアパートの部屋で1人ご飯を食べる隼人。

隼人(残暑の影響で9月になっても暑い日が続いていた。母親の帰って来ない数日の間にエアコンが壊れ、こもる暑さに耐えられず外に出た。熱中症になりかけていたのか、すでに俺の意識は朦朧としていた)
ぼーっと道を歩く隼人、フラフラしてる。
隼人「…。」立ち止まり川を見る。
(喉が渇いた…)
川に向かう足元。

川の水をすくい上げ飲む、ごくん
隼人(冷たい…)
体を冷やすため川の中へゆっくり入っていく。膝まで浸かった時、川の流れに足を取られる。
隼人「うわぁ…っ」
流され溺れる。

私服姿の勇清と清華が歩いている。
川を見た清華は隼人に気づく。
清華「お兄!川で人が流されてる!」
勇清「えっ!?」

急いで川まできた2人。
勇清「清華、救急車呼んで!」スマホを渡す
清華「う、うん!」
上の服を脱いだ勇清は川に入って、隼人を助けに行く。

流される隼人
隼人(別にいつ死んだっていい…けど苦しい…)
勇清の叫び声がかすかに聞こえてくる
隼人(俺、死ぬのかな…)

清華がスマホを切り終えると、勇清が隼人を抱え川から戻って来た。
清華「お兄、大丈夫!?」
隼人を寝かせる。水を大量に飲み、息をしていない。
勇清「俺は大丈夫。清華、人工呼吸出来るか!?」
清華「え、学校で少し習ったけど…」
勇清「俺が心臓マッサージすっから、清華は合図したら鼻つまんで息吹き込め!」
清華「わかった、やってみる」
勇清が心臓マッサージをし、清華が息を吹き込むシーン、口元アップめ。
救急隊員が駆けつけるまでの間、2人で救助を行う様子。

隼人「…ぐぉっ、げほっ…」水が口から出る
息を吹き返し、意識を取り戻した。薄っすら目を開け、目の前にいる清華を見た。とても心配している表情の清華。

隼人(ぼんやりとした意識の中で見た清華は、まるで女神のようだった)

隼人(川でのことがきっかけで、母親の育児放棄が明るみになり、俺は児童保護施設で暮らすことになった)

○秋、公園
保護施設の近くの公園のベンチに座っている隼人。
勇清「隼人ーー!」
学ラン姿の勇清が大きく手を振る。

隼人(勇清さんは1人になった俺を気にかけ、定期的に会いに来てくれた。1人で来る時もあれば、友達や後輩を連れて来ることもあった)
勇清たちは学ラン姿や私服姿など。

勇清「隼人、よーく聞け。男の強さや力は、大切な人や弱い人を守るために使うんだぞ」
隼人「大切な人なんていない…」
勇清「…。」
隼人の頭をぐしゃぐしゃっとする。
隼人「…えっ!?」
勇清「そのうちお前にも死ぬほど大切な人ができるから!」無邪気な笑顔
隼人「…。」

隼人(勇清さんは妹の清華を溺愛していて、事あるごとに写真を見せてきて、清華にまつわる話を聞かせてきた)

隼人中1、勇清大学1年。
勇清「見ろよ、これ。この前清華が修学旅行に行って来たんだけどさ、いくら班とはいえこの男子距離近くね?」
スマホで写真を見せながら。
隼人(たしかに)
勇清「こいつ絶対、清華に気があるぜ?こーゆー変な虫がつかないように、女子校に行かせるんだよ」


○去年、椿女子中学校、グラウンド
隼人高1、勇清たちは大学生。
体育祭の保護者の応援スペースで勇清たちといる私服姿の隼人。
隼人目線のリレーで走るハチマキ姿の清華や友達と楽しそうに話す清華の姿。

隼人(あの日見た女神は、どんどん綺麗になっていき、それに比例して俺の想いも大きくなっていった)

勇清「俺たち、清華に声かけてくるけど隼人も行くか?」
隼人「いや、いい」
話している勇清や清華を遠目から見ている隼人。

隼人(俺にとって勇清さんと清華はただの命の恩人じゃない。2人は生きたいと思う希望を与えてくれた)

○勇清の部屋
隼人「ねぇ、勇清さん」
勇清「ん、どしたー?」
隼人「清華ちゃんと結婚したいんだけど…」
一瞬固まる勇清。
勇清「本気で言ってんのか?」
隼人「…うん」
勇清は、ふっ、と口元が緩む。
勇清「俺の世界で一番大切な妹を任せられるのは隼人だけだ。絶対に幸せにしろよな!」笑顔


現在に戻る
○再びリビングのソファ
清華「…ごめんなさい。そんな大きな出来事なのに、私全然覚えてなくて…」申し訳なさそう
隼人「謝ることじゃないでしょ。つーか謝るのは俺のほうだし。ずっと言えてなくてごめん…命を助けてくれてありがとう」
清華「…いえ。…命の恩人だから私を好きになったんですか?気にかけてくれた兄の妹だから結婚したいんですか?」
(私は何を聞いているんだろう。私への気持ちが恩返しから来るものなら、それは愛ではない)
隼人「それは違う。清華ちゃんへの気持ちは特別だから。一方的とはいえ、色々知った上で本気で好きになったんだよ。それだけは信じてほしい」
真っ直ぐ見つめる。
清華(嘘じゃないのが伝わってきて、安心した自分がいる。この本気の気持ちを知って、私はどうしたいんだろう…)