そう言って笑う彼の横には、新しい計量器、ふるい、ハンドミキサー。
袋から出されたままの薄力粉と発酵バター。
その一つひとつが、どれもわたしが普段使う道具とほとんど同じだった。
「……これ、全部そろえたんですか?」
「ええ。あなたが作るところを見ていたら、どうしても欲しくなってしまって。僕のアトリエに、あなたの“場所”を作っておきたくて」
さらりと告げられたその言葉に、一瞬、胸の奥が掴まれたように息が止まる。
(“場所”……)
神城さんは続ける。
「今日は、少し時間がありますか?また、あなたの香りを描きたいんです」
「香り……」
「ええ。僕の絵は、目で見るものじゃない。香りと、空気と、あなたの手の動きでできているから」
彼の声はやさしいのに、どこか熱を帯びていた。
その温度に、思わず視線を落とす。
「……じゃあ、少しだけ」
「ありがとうございます」



