――翌日。


アトリエの扉を開けると、前に来たときよりもずっと整頓されていた。

窓辺の花が新しくなっていて、光が床に淡い模様を描いている。


神城さんはキャンバスの前に立ち、こちらを振り向いた。


「来てくださって、ありがとうございます」

「いえ……モデルなんて、初めてで」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。僕はただ、あなたの“今の表情”を描きたいんです」


彼の声は静かで、どこかあたたかい。

けれど、その瞳の奥には確かに熱があった。


「この前のイベントで見たあなたの顔が、忘れられなくて。少し疲れていたけど、すごく綺麗でした」


その言葉に、胸の奥がかすかに波立つ。


「……そんな、綺麗だなんて」

「本当ですよ」


そう言って、彼は筆を持つ手をゆっくり動かした。
 

しばらくの間、部屋の中には筆の音だけが響いていた。

わたしは窓際の椅子に座り、少し硬い姿勢で息を整える。