「……わたし、今日はもう帰りますから」

「送ります!」


即答だった。

食い気味すぎて、わたしは絶句する。


「い、いえ。送っていただかなくても……」

「危ないですよ、夜道は。女の人がひとりで歩くなんて」


真剣な眼差しで見つめられ、反論の言葉を飲み込んだ。


(なに、この人……怖いんだけど――)


「それに……」


煌は少しだけ視線を落とし、抱えていた紙袋をぎゅっと握った。


「おねーさんのケーキじゃなくても、このお店のお菓子を食べながら、ずっと待ってたんです」

静かな声に、不意に胸が詰まった。

やけにまっすぐな眼差しに射抜かれる。


「……っ」


言葉が見つからず、思わず視線を逸らした。

背筋にひやりと冷たいものが走る。

でもその奥で、なぜか熱を帯びるようなざわめきもあった。


「ね、少しだけ。少し話をするだけでいいですから……今日は!」


彼は夜の街灯に照らされながら、犬のような目でこちらを見つめている。

必死に断ろうとしているのに、その視線から逃げられなかった。