残された静かな空間。
「……来てくださったんですね」
わたしが少し戸惑いながら言うと、神城さんはふっと笑った。
「ええ。実は、少し耳にしまして。商店街のイベントに出られるとか」
「えっ……」
「旦那さんと芙美子さんが、話しているのをさっき来たとき偶然聞きました。――その新作のケーキ、真白さんが作るんですよね?」
「はい。でも、まだ特訓の段階で……本格的なケーキ作りは久しぶりなので」
「それなら」
神城さんは一歩近づき、わたしの視線を静かに捕らえた。
その距離の近さに、息がわずかに詰まった。
彼の瞳に映る自分の姿が、逃げ場のない光の中に閉じ込められたようで――。
「その新作のケーキが決まったら、そのメニュー表を僕に描かせてもらえませんか?」
「え?」
「ポスターでもいい。あなたの作るケーキを、形にしたいんです」
わたしは驚いて言葉を失った。
彼の声は穏やかだった。
けれど、その奥にある“衝動”は、筆を持つ人間の熱そのものだった。



