言葉が出なかった。
ただ、彼の声がゆっくりと胸に沁みていく。
「もしよければ……一緒に食べませんか?」
「え?」
「淹れたてのコーヒーがあります。マドレーヌには、それが似合う気がして」
神城さんが静かに微笑む。
その表情に、思わず頷いていた。
テーブルの上に、二つのマドレーヌとコーヒーのカップ。
部屋には、焼き菓子の香りとコーヒーの苦い香りが混ざり合う。
一口かじると、外は少し香ばしくて、中はふんわり。
その瞬間、胸の奥に小さな灯りがともる。
「……美味しい」
「ええ。――やっぱり、あのときの“おねーさん”の味だ」
彼の声に、不思議と涙が出そうになる。
オーブンの熱、焼けた香り、光。
あの日から止まっていたものが、ゆっくりと動き出していくようだった。
「神城さんのあの絵のお陰で、また作ってみようと思ったんです」
「本当ですか!」
「ええ……だから、お礼を言いたくて……ありがとうございます」



