「この味……やっぱり真白ちゃんのだわ」
「うん。あのときのイベントのケーキを思い出すな」
「イベント……?」
芙美子さんが懐かしそうに目を細めた。
「ほら、あなたが学生のときに商店街の夏祭りで作ってくれたじゃない?あのレモンのショートケーキ。暑い日だったのに、口に入れたらふわっと涼しくなって……あの味、忘れられないの」
「あ……覚えててくれたんですね」
「もちろん。あのときね、主人と話したの。“あの子はきっと、いい職人になる”って」
旦那さんが照れたように笑いながら頷く。
「それで、しばらくして“作れなくなった”って聞いてさ。何があったのかは知らないけど……放っておけなかったんだ」
「え……」
「だから、うちに来てもらったのよ。無理に作らなくてもいいから、甘い香りのそばにいれば、いつかまた“手が動く”かもしれないと思って」
芙美子さんの声が、やわらかく沈んだ。
(……知ってたんだ)
理由を聞かずに、ただ“居場所”をくれた人たち。
その優しさが、今さらのように胸に沁みてくる。



