オーブンの小窓をのぞく。
貝殻型のマドレーヌが少しずつ膨らんでいく。
焼き色がついて、部屋いっぱいに甘い香りが広がった。
「……できた」
小さく呟いて、ミトンを外す。
指先に残る熱が、不思議と心地よかった。
夕方、紙袋に包んだマドレーヌを手に店へ向かった。
ショーケースの明かりが落ち、閉店準備をしている芙美子さんの姿が見える。
ドアを開けると、鈴が静かに鳴った。
「真白ちゃん? どうしたの、もう上がっていい時間でしょ」
「ちょっと……焼いてみたんです。久しぶりに」
紙袋を差し出すと、芙美子さんの目が見開かれた。
「まあ……!ほんとに?どれどれ……」
袋を開くと、甘い香りがふわりと広がる。
黄金色のマドレーヌが整然と並んでいた。
「わあ、きれい……」
彼女の声に、胸が少し熱くなる。
「味見してもいい?」
「もちろんです」
芙美子さんは旦那さんを呼び、二人でマドレーヌを一口ずつ食べた。
すると、顔を見合わせて笑う。



