気づけば、指先で無意識にテーブルを撫でていた。
生地を混ぜていたときの癖が、まだ身体に残っている。
「ねぇ、真白」
「うん?」
「最近、なんか表情変わったね」
「……え?」
「なんかさ、ちょっと柔らかくなったっていうか。前はずっと、無理して笑ってる感じだったのに」
一瞬、言葉が詰まる。
(柔らかく……?)
「そんなことないよ」
「あるって。……なんか、いいことあった?」
「……ううん。なんにも」
そう言いながらも、心の中ではあの“光”がちらついていた。
運ばれてきたシフォンケーキにフォークを入れる。
ふわりとした食感とともに、甘酸っぱい香りが広がる。
(やっぱり、好きだな……この香り)
胸の奥が、じんわりと熱くなった。
彩花がにこにこと言う。
「真白、やっぱりケーキ食べてるときが一番それっぽいね」
「それっぽい?」
「うん、“パティシエの顔”っていうの? 昔みたい」
フォークを持つ手が、ぴたりと止まった。



