彩花はコートを脱ぎながら、相変わらずの明るさで笑った。
その笑顔を見ていると、心のどこかが少しだけ緩む。
注文を終えて、カップに注がれたコーヒーの湯気が立ちのぼる。
「ここのケーキ、すっごく人気らしいよ!インスタで見てずっと気になってたんだ~」
「へぇ……」
(どんなケーキなんだろう。昔なら、つい味を想像してたのに)
メニューの写真には、繊細なデコレーションが並んでいた。
苺のタルト、ピスタチオのムース、レモンのシフォン。
どれも綺麗で、整っていて――眩しかった。
「真白はどれにする?ほら、甘さ控えめのもあるよ」
「……じゃあ、レモンのシフォンにしようかな」
「おっ、珍しい!酸っぱい系ってあんまり頼まないじゃん」
「今日は、そんな気分なの」
そう答えた瞬間、胸の奥に微かな痛みが走った。
昔、夏に試作したレモンケーキのことを、ふと思い出した。
焼き上がりの香り。切り分けた瞬間の、しっとりとした手応え。
(あの頃、毎日何かを作っていたな……)



